《MUMEI》 ライラの震える声が聞こえ、銃が床に落ちる音 彼女の身体がその場へと崩れ落ちていた 「この男の所為で姉さんは……。義兄さんと姉さんの子供は!!」 喚くように訴えてくるライラへ 「……だからって、あいつを殺しても全てが元に戻る訳じゃない。それはお前だって理解してるだろ」 その身を抱きしめてやりながら言って聞かせてやれば それでもライラは首を横へばかり振る 「でも……」 「……お前まで手ェ汚す必要ねぇよ。聞き分けてくれ」 落ちたままの銃を拾い上げ、ライラの身体を抱きしめてやった 涙を流し泣き始めてしまった彼女に、そのサキの仕草は余りにも柔らかい 思い出してしまう、忘れる事など出来ない過去 失ってしまった最愛の者たち 与えられた理不尽な死に納得など出来る筈もなく 過去でも、そして今も泣き続けていた 「こんな、こんな人形の為に姉さんは……。どうして姉さんが死ななければ……」 「……悪かった。あいつを守り切れなかった俺が悪い」 重苦しく呟くサキにライラは首を横へ 久方振りに溢れ出す悲しい・悔しいという感情に 流れる涙をサキの指先が優しくさらっていった 「……人形術なんてなかったら、姉さんも義兄さんも辛い思いをしなくても済んだのに。どうして……」 一度吐き出し始めてしまった胸の内は、今まで溜めこんでしまっていた思いを全て露呈させる 常日頃、感情を余り表に出さない彼女故に、その反動は大きかった 「……嫌い、です。人形術も、それを扱う人形師も!!」 理解はしていた。彼女が人形術を疎んでいる事は それでも、そうだったとしても 人形術に頼らなければならない自分(達)がそんあ彼女のすぐ傍に居て どれ頬彼女を苦しめ、傷つけてきたことか 「……あんなもの無ければ――」 「随分な言われ様だな。これこそ人間の救いになるものだというのに」 「嘘よ!だったらどうして?どうして姉さんは!姉さんだけじゃない、あの時あの場所にいた多くの人達が死ななければいけなかったの!?」 ドラークの嘲笑うかの様な言葉にライラは過剰な反応を返し そのライラの身体をサキは背後から強く抱く 「ライラ、もういい。もう、いいから」 これ以上、彼女の内の何かが壊れてしまわないようにと 今のサキのにはそうしてやることしか出来なかった 「……ヴァレンティ。お前の義妹も不憫なものだな。実に惨めだ」 益々嘲る言の葉を投げつけながら、ドラークはにじり寄ってくる サキの腕の中、泣くしか出来ないライラを唐突に退けるとサキの懐へと入りこんで 左腕を徐に掴み上げる 「……素晴らしいな」 その肩の付け根、血の様な朱で描かれた術印を見、ドラークが呟いた 次の瞬間、鈍い音を立て引き千切るかの様に外された腕 痛みこそないものの、違和感だけはひどくあった 「テメェ、何す……」 「いい人形だ。ヒトの肉と何ら変わらないこの質感。流石、とでも言っておこうか」 嫌な笑みが目の前 無理矢理に身体から引き剥がされた腕は痙攣を起こし始め その様を眺めていたドラークは、笑みを更に濃くし、その手首に唇を落とす 「やはり、お前は手放すべきではなかったな」 「何、だと?」 「どんな手を使ってでも私の手元に置いておくべきだった」 顎を掴まれ、あからさまに逸らしていた視線を戻された 見たくない笑みがすぐ其処 サキの表情が嫌悪に歪む 「教えて貰おう、サキ・ヴァレンティ。魂を持つ人形の造り方を」 「……それ位、自分で考えろ」 何とか顔を逸らそうと首をひねるが その度ドラークの手に力が入りそれを許されず 更には溜息まで聞こえ始めた 「考えて解るのなら苦労はない。今まで多くの人形師達が人形に魂を植え付けようと試みたが失敗してきた。……それを成功させたのは、お前だけだ」 「……何が、目的だ?」 何の為にそれを望むのか、と改めて問う事をすれば ドラークの肩が笑う声に揺れ始めた 「……空の器が、すでにあるからだ」 一回聞いただけでは理解に苦しむ返答 だが、正気の沙汰ではない事が容易に想像が出来 サキは勢い良く脚を蹴って回すとドラークと距離を取った 「テメェの馬鹿けた企みに付き合ってやる暇はねぇ。ライラ、帰るぞ!」 彼女の手を掴み取り外へ 立ち去り際に呼び止められ、ドラークは何かを放って寄越す 外された、左腕 前へ |次へ |
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