《MUMEI》

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………いつの間にか、自分のベッドで寝込んでしまったようだ。



ゆっくりと身体を起こして周りを見回す。



いつもと変わらない、自分の部屋。



視線を落とすと、ベッドの下にヒューが眠り込んでいた。
きれいな毛が生えている柔らかな腹が、上下に動いている。

わたしは足をベッドの下に下ろすと、空気の動きに敏感に反応したヒューが、パチッと大きな目を開く。

ヒューはわたしを見上げて、パタパタと尻尾を振って見せた。


「起こしちゃった??」


ごめんね……と掠れた声で彼に言う。

それからわたしは窓の外に視線を向けた。



大きな太陽が、オレンジ色に燃えている。





今日も、一日が終わる。



明日は?



わたしのもとへ、やって来る?





…………分からない。





堂々巡りの自問自答を、いったいいつまで続ければいいのだろう。

虚しい気持ちでいっぱいになった。



そのとき。



ドアが、軽くノックされた。



閉ざされたドアに、ヒューが顔を向ける。わたしもそれを追った。


ドアの向こう側から、お母さんの声がくぐもって聞こえてきた。


「高橋さんが見えたわよ」


わたしは眉をひそめた。





…………祐樹が??





「………寝てるって言って」


今しがたまで、眠りこけていたのだ。あまり大きい嘘ではない。

しかし、お母さんは譲らなかった。


「せっかくいらっしゃったのに…顔くらい見せなきゃ、申し訳ないでしょう?」


言い聞かせるように呟いたが、わたしだって引かなかった。


「だったら、会いたくないって伝えて。はっきり言って迷惑だって。お母さんが言えないなら、わたしが言うわ」


まくし立てるように言った。

わたしのつれない返事に困り果てたお母さんは、「百々子……」と弱々しくわたしの名前を呼んだ。


「一体、どうしたの?なにが気に入らないのよ?昔はもっと………」


言いかけて、止めた。

それをわたしは補う。


「もっと、素直で、いい子で、優しかったのに、でしょう?」


自分で言って、イライラしてきた。

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