《MUMEI》 . 胸に込み上げてくる烈しい感情を、もう、止めることが出来なかった。 「…そうだよね。昔のわたしは、いつもニコニコしてて、穏やかで、友達もたくさんいて、今とは全く別人みたいだった……………でも」 そこで、一息置いて、 低い声で呟いた。 「…それ、もう聞き飽きたわ」 …………わたしが、こんな頑なになってしまってから、 口を揃えるように、みんなが言った。 『昔と違う』 当たり前でしょ、と思った。 だって、わたしは間違いなく、昔のわたしとは違う。 わたしを取り巻くすべての環境が、 待ち受ける未来が、 たったの、一瞬で、 変わってしまったのだから………。 わたしの冷め切った台詞を聞いて、 ドアの向こうにいるお母さんは、泣いていたようだった。 鼻をすする音と、嗚咽だけが微かに耳に残る。 −−−それすら、煩わしかった。 わたしはドアから目を離し、自分の指先を見つめた。 骨張った指はひどく無機質に見えて、とても不気味に感じた。 ヒューが凍り付いた空気に戸惑ったのか、悲しげに鼻を鳴らした。 わたしはヒューを安心させようと頭を撫でてやる。 それから、ぽつんと呟いた。 「……祐樹には、帰って貰って。話すことは、なにもないんだから」 そうつづけたとき。 おもむろにドアが、開かれた。 わたしは目を向ける。 そして、固まった−−−−。 そこに、現れたのは。 「相変わらず、冷たいな」 そう言って、悲しくほほ笑んだのは。 「…………祐樹」 かつて恋人だった、高橋 祐樹。 彼が泣いているお母さんの隣で、わたしをじっと見つめて立っていたのだ。 わたしも、祐樹から目を逸らせずにいた。 そんなわたしたちを、ヒューが不思議そうな顔をして見つめていた−−−。 . 前へ |次へ |
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