《MUMEI》
一章:自傷
いつまでも、罪に捕われたまま逃げることも敵わない。
 衝動を振り切るために唇を噛み締め、息を止めた。
瞼を落とし平静を保とうとする。
そんなボクの行動を嘲笑うように、過去はボクに襲い掛かる。
 残像なのか記憶なのか。
思い出してしまう映像がある。
赤に染まった世界。
ボクが赤に染め上げた世界が、ボクを赦さない。
自分の罪からは逃げられない。
否、逃げてはならないのだ。
償い切れない罪と共に、生きるしかない。
 血が減れば貧血になる。
簡単な真理に則り、ボクも例外ではなく体がふらつき始めた。
ボクは収納棚にしまわれた救急箱を取り出し、包帯と消毒液を用意する。
ガーゼに消毒液を染み込ませ、皮膚に宛てがう。
真っ白なガーゼが血を含み、赤に染まっていく。
傷口に染みる消毒液。
痛くても声は出したくなかった。
眉間に皺が寄る。
力を入れすぎたのか、噛み締めた唇の方が痛かった。
消毒を終え、新しいガーゼで傷口を覆う。
テープで固定し、上から包帯を巻いた。
 日常、そう言ってしまえば簡単な、異常、と言えば難解な、そんな痛みとある行為。
引き裂かれる苦痛を与える。
それが、ボクを救うことの出来る唯一の裁きだと信じていた。

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