《MUMEI》
3
―中間地点―

人界とは空間を別にする天界と魔界からゲートを越え、必ず通過する地点。

何度も天使と悪魔の戦争、天地大戦の場所となった広大な草原には、三界全ての空気が流れ込むため、多種多様な草花の宝庫にもなっている。

その一角にある花畑で謳う天使が一人。

長く少し緩い波の着いた銀色の髪、青空をそのままはめ込んだような鮮やかな蒼の瞳、人にすれば十五、六歳といった風貌だ。二十歳過ぎくらいのサマエルや、三十過ぎの風貌のアズラエル達よりも若い。

「良かったぁ、やっと咲いてくれた。」

そう無邪気に喜ぶ彼女の側にはオーロラの様な色をした花の一群が咲いていた。
「天界と魔界の花の混合種が咲くなんて滅多にないもの。 」

笑顔で回りを見渡すと、先程までの歌に惹かれたのか、近くの木に小鳥達が集まっているのが見えた。

「あら、みんな歌は好き?」
木の近くに座り直し、彼女は歌い出した。

「みんなが聞いてくれるなら本当はダメだけど特別よ?」

そうして彼女は少し違った音階の歌をはじめた。

神に捧げたり退魔の力のある聖歌だ。

辺りが温もりを帯びるような、そんな不思議な空間に
「グボッ!!」

ドサッ

「な、何!?」

突如聞こえた蛙が潰れたような声と何かが頭上から落ちてきたことに驚き振り返る。

「っ痛〜!!どこの誰やっこないな所で聖歌歌っとるアホわぁ!!」

怒声と共に起き上がった青年は尖った耳にズラリと並んだピアス、黒灰色の髪、紫水晶の瞳、黒を基調にした服に身を包んでいた。年の頃はティアラと同じか少し上くらいだろう。

「せっかくの昼寝が台無しや!」

そうしてティアラをキッと睨み付ける。

「おーまーえーかぁ〜」

「ふえっ!?」

「見て見ぃこの傷!」

勢いよく指差した額には一筋の血が…

「だ、大丈夫ですか?」

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