《MUMEI》 . 自分の名前を呼ばれたと勘違いして、ヒューがむっくりと起き上がる。わたしの顔を見上げ、喜々とした表情を浮かべた。 わたしはヒューの顔を見つめて、祐樹に言った。 「近くの公園……大丈夫、すぐに終わるから」 祐樹を連れ出して、ヒューの散歩に出かけると、外はもう真っ暗だった。 夏の空気を含んだ夜風が、わたしの頬を撫でて通り過ぎていく。 ゆっくり歩く二人に、会話はなかった。 まるで、わたしと祐樹の間には、目に見えない深い溝が、存在しているみたいに。 数分もかからず、公園にたどり着いた。 だれもいない夜の公園は、昼間の印象よりもずっと神秘的で、全く違う空気が立ち込めていた。 わたしは立ち止まり、深呼吸をする。 その隣で、祐樹も足をとめた。 ヒューだけがそわそわとした落ち着かない様子で、広場の中をウロウロと歩き回っていた。 −−−少し間を置き、 祐樹の顔を見て、唐突にわたしは言った。 「どういうつもり?」 あえて、強い口調にした。 容赦はしないつもりだった。 戸惑う祐樹をよそに、わたしはつづける。 「電話とかメールとか、あれは一体なに?揚句にウチまで押しかけて……どういう神経してんの?」 すっごい迷惑、と言い切って、わたしは祐樹を睨みつけた。 彼は言葉を探すように左右に視線を泳がせながら、小さな声で答える。 「勝手なのはわかってるよ……百々子の様子が、どうしても気になって」 ゴメン…と、弱々しく謝ってきた。 呆れてわたしは肩を竦める。 「わたしたち、終わったんじゃなかったっけ?」 わたしの台詞に、祐樹は黙り込んだ。なにも言い返せないはずだ。 だって、わたしたちの関係を終わらせたのは、祐樹本人だからだ。 わたしは祐樹に冷たい目を向け、静かな声でつづけた。 「………もうわたしに構わないで。祐樹の自己満足に振り回されるなんて、まっぴらよ」 自分でもヒドイ言い方だな…と思う。でも、この怒りを止められなかった。 . さよなら、と呟き、すぐさまヒューを呼んだ。話は済んだ。だから帰ろうと思ったのだ。 ヒューはわたしの方へやって来ると、顔を見上げて座り込む。 −−−そのとき。 「心配なんだよッ!!」 祐樹が声を張り上げて言った。 わたしはビックリして彼を見る。 . 前へ |次へ |
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