《MUMEI》 . 祐樹は怒ったような目をしてつづけた。 「お前を心配することも、自己満足だって言うのかよッ!?」 祐樹の怒鳴り声に、 わたしはキッと彼を睨みつけた。 「なにそれッ!?いい加減にしてッ!!わたしのこと、『重い』って……『もう支えてあげられない』って言ったのは祐樹でしょう!?」 わたしの金切り声にも、祐樹は引かなかった。 「落ち着いて聞けよ!!お前の気持ちも無視して、悪かったと思ってる!後悔してるんだ、なんであんなこと言ったのか……」 祐樹の身勝手な言い分に、わたしは拳をグッと握りしめた。 悪かったと思ってる…? 後悔、してる…? …………だったら、 どうして、わたしを支えてくれなかったの!! 懇親の力を振り絞って、胸の内を叫ぼうとしたとき、 ヒューが、後方を振り返り、急に立ち上がった。長い尻尾を、ブンブンと激しく左右に振り出す。 −−−それと、同時に、 祐樹の表情が強張った。 その視線は、わたしをすり抜けて、後ろを見つめている。 不思議に思い、眉をひそめると、 不意に祐樹が呟いた。 「……だれだ?」 わたしは一度、瞬き、 祐樹の視線を追って、ゆっくり振り返り、 そして、目を見張る−−−。 公園の外の歩道に、 ぼんやりと、見えた。 …………あれは、 昼間見かけた、青年。 見覚えのある、その白いポロシャツが、闇夜の中、鮮やかに浮かび上がっていた。 その青年と、一瞬だけ、目が合う。 頼りない、迷子の子供のような、 寂しそうな、その瞳に、 わたしの意識は、吸い込まれた……。 見つめたままその場に立ち尽くし、動けないでいると、 青年は、戸惑った表情を浮かべ、それから急にプイッと顔を背けて、走り出した。 そのまま一度も振り返らず、闇の中に溶け込んでいく………。 完全に青年の姿が見えなくなると、祐樹が「知り合い?」と、ぽつんと呟いた。 その質問に、わたしは無言で首を横に振った。 −−−胸が、ざわめいた。 あの、寂しそうな瞳を見たとき、 《わたしと、似ている》 漠然とだけれど、 そう、思ったんだ。 だから、 わたしは、あのとき、 キミから、目を離せなかった…………。 . 前へ |次へ |
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