《MUMEI》 なぜシャワーが外に出てるのか、バスタブがなぜ深いのか、この穴の開いている逆さまのシャーレ(桶)は何なのか、日本の風呂の仕様がよく分からなかった。 さくらを何度も呼んで、バスタブの外にも排水溝があるからシャワーは外にあるんだとか、逆さまの桶はイスだと教えてもらったり、最後に、身体に付いた泡を落とすという事も教えてもらった。 僕の所の洗剤は自然原料で出来ているので泡を落とさなくてもいいんだけど、日本のものは工業製品だから落とさないとかぶれて赤くなってしまうんだそうだ。 僕も旅行には慣れていてインドにもタイにも行った事はあったが、アジアの中でも日本は何もかもが特別なような気がした。 髪をドライヤーで乾かしてみると、すごくフワフワしてきて赤ん坊のようなフワフワな髪になってしまった。 さくらの使っていた香りの良いシャンプーの隣に”リンス(すすぐ)”と書いてあるものがあったので、なんとなく使ってみたらこんな事になってしまったのだ。 さくらの髪は黒くて艶々プルンとしてたのに、なんでこんなに違うんだろう? これが人種の差なのかな…。 あんな髪の色だったら…僕はこんなバカっぽい見た目にはならなかっただろうな…。 キッチンの側に置かれたこの”フトン”という名のベッドに横になると、昨日は寝てないのもあってウトウトはするものの、興奮してなかなか寝付けなかった。 「…サクラ」 小声で彼女の名前を呼んでみたものの、当たり前だが返事は無く、真っ暗な部屋の中でなんとなく寂しくなった。 自分の長い髪から、ふんわりとさくらと同じ香りがする。 (さくら…) あの腕に抱かれて、甘えてみたい…。 俺は父上の側に居た若い女性の子供、いわゆる私生児だった。 ある程度母と暮らし、僕が成長してからそれが分かってから、僕は母と離されてしまった。 僕は母と離された寂しさで毎晩泣いていたのに…後に母は僕を父上に売ったという話を聞かされた。 だから僕は…僕を育ててくれる…僕を捨てない母親を未だに探しているんだと思う。 母親のようなさくらに思いっきり甘えてみたいんだ…。 前へ |次へ |
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