《MUMEI》
一章:新学期
去年から担任になった安津も、相当な怒りが溜まっていると予想される。
「おい、宇津井。良い度胸してんじゃねぇか。覚悟は出来てんだよな?」
教師にあるまじき言動も、このワイルドを気取る安津に掛かれば、人気の要素にしかならない。
だが、やはり迫力があるだけに怖かった。
反省を示すため頭を下げる。
「わざとじゃないデス。オレ、これでも頑張ったんだよ、安ちゃん!」
安津が溜息を吐いて教卓を掌で叩く。
「昨日も、去年も、俺は同じ台詞を聞いたが? わざとじゃねぇのは解ってる。まあ、気ぃ付けろや」
ヤレヤレ、と諦めた面持ちで首を左右させ、手で席に着けと示された。
 短く返事を返し、出席番号順に並ぶ己の席に近付く。
木製の机にランドセルを置き、フックに横断バックを下げる。
ギシ、と音を立て椅子に腰を落ち着かせ、ランドセルから提出するプリント類と筆箱を取り出した。
道具箱を机から半分ほど引っ張り、其処に入れる。
オレが席に着くのを確認し、安津は何事もなかった風情で朝の会を再開するのだった。


 特別日課である今日は、午前中で学校は終わりになる。
給食もないので、随分と早い下校だ。

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