《MUMEI》
一章:新学期
 帰りの会も無事に終了し、帰る気満々のオレに、神様は無情にも試練を与えてくれたらしい。
安津に職員室まで呼び出されてしまった。
遅刻の件かと身構えながら、安津の後に着いて職員室に向かう。
 職員室の安津のデスクの前まで来ると、一つの封筒を渡される。
「これ、届けて欲しいんだわ。頼めるか、知有?」
学校では滅多に口にしようとはしない下の名を、彼が呼んだ。
オレは怪訝に思い安津を窺う。
安津との付き合いは、彼がオレの担任になる前からで、彼のことはそれなりに詳しい。
榛伊の高校時代からの友人を名乗るだけあってか、公私はきちんと分ける人間だ。
「別に良いけど。何処に届けんの?」
封筒を調べても何も書かれていない。
「ああ。粟冠、知ってるだろ? 粟冠 倶利。奴の家まで頼まれてくれっか?」
粟冠 倶利のことは勿論知っていた。
同学年で彼のことを知らない人間はいないんじゃないか、と疑える程に倶利は有名だ。
1年の頃から一度も学校には通っておらず、教師が月に一度彼を訪れ、テストを渡すらしいのだが、常に満点だと聞く。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫