《MUMEI》
一章:新学期
倶利に会える確率は非常に低く、運良く彼に出くわした教師が自慢気に話していた情報によれば、容姿も整っていると言う。
才色兼備、天才少年、と噂されている人物が倶利である。
 オレは頷きを返して封筒を横断バックに入れる。
「解った。粟冠に渡せば良いんだね?」
「おう、助かるわ。調べたら、お前が一番近くてな。俺が行っても良いんだけど、暫くは忙しくて動けそうにないんだ」
内緒話のように声が潜められる。
オレはニッと口端を引き上げ胸を張った。
「任せとけ! オレと安ちゃんの仲だもんな。困ってる時はお互い様って言うし」
安津を「安ちゃん」と呼べるのは、実はオレしかいない。
安津への気安さが許されている人間は少ないのだ。
そんな事実がオレに優越感を与える。
ただ単に、頼み事は嬉しいことでもあるのだが。
他人から頼りにされる。
それは、自分という存在が必要とされていることに繋がる。
必要とされることが、オレは好きなのだ。
「まぁな、俺とお前の関係なら、宇津井に拒否権ねぇし。地図描くからちょっと待っとけ」
「なっ、オレに拒否権ないの!? 横暴だよ! それに、地図ぐらい描いとけよな」

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫