《MUMEI》

玉流しは祭の最後の夜に川へ流す儀式だ。
玉は草を干したものを丸めて川へと流す。

玉は魂や飢饉で死んだ人達を指していて、玉流しは鎮魂の儀式なのである。


「君と先生を見てから、私はおかしくなりそうだったよ。」


「其れはぼく達がおかしいからです。」

ぼくは、此処で峯さんを見た。


「首塚斬士郎の担当、峯として云わせて貰うと君は良く出来た世話人だった。唯一の欠点は、峯 三次を生かしたことだよ。」

今は三次さんを見ている。本当は、貞二さんが正しいのだが。
玉流しの川は、靜かに宏彦さんの御霊を流して行くのだろう。
ぼくはまた、其れを見ては思い出すのだ。


「峯さんはぼくを殺したりしません。」

三次さんは、ぼくを殺さない。


「情けない事にね……僕だけじゃあ無理なんだ。貞二もいなきゃ、僕は駄目みたいだ。」

峯さんがぼくを生かすのは、峯さんが貞二さんに逢いたいからだ。


「貞二さんとちゃんとお別れしましょう。三次さん……頚の痣が、濃ゆくなってます。」

持って行かれる前に、魂を流して終わなければいけない。
頚の縄の紋様は、日に日に食い込みやがて彼の息を止めるだろう。


「貞二は愛に飢えていたよ。母は艶子になることで、松子は首塚斬士郎になることで手に入れた。貞二は父にはなれなかった、今更だけれど、失った多くのものに涙出来る。」

三次さんの優しさは時に付け込まれる。


「貞二さんの殺した、死体はまだ見付かって無いのですよね……祭の前後三日間は、人が死んでも葬儀をあげられないしきたりで、桶は他の村に密葬として渡さなければいけないんでしたね……」

睡眠薬を飲ませて、溺死させ、棺桶に詰めた。
棺桶は村に運ばせるよう橋に置いておく。その中の死体をすり替えたのだ。
晶代さんと二人で。

松子さんと先生を装い、橋の下で殺害した。

その日の棺桶には顔の潰れた死体が入って首が絞まっていれば、詳しい事情を知らない村人は隣村の見知らぬ他人を焼き払ってしまうだろう。


「中々面白い。先生が聞いたらどんな反応して呉れるのだろう。
母が父を殺す手筈だったが、父は生きていたんだよ。父が母を殺したんだ。行方不明らしかったが、逃亡用の切符も手配した。後は、知らない、何せ不明なのだからね。」

峯さんはい辛っぽい喉を何度も咳き込ませた。


「峯さん……」

確かに、彼は生きているのだろう。
ぼくが出来ることは少ない、例えば、川に突き落としたり。

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