《MUMEI》
一章:出逢い
幾度も指を行き来させ、体内から零れ落ちていく血液に安堵の念を抱いた。
 解っている。
こんな行為に意味がないことは。
ボクの指を汚す体液に酔い痴れて何になると言うのだろう。
ただボクは、自分を責めたいだけなのだ。
解っている。
こんなことをしても許されないことは。
 それでも、耐えるためにボクは、疑似自殺を繰り返す。
生を消すことの代わりに、傷を付けた。


 とんとん、と重たい木製の扉が叩かれる。
不意のことにボクは手を止める。
腕から血を流している今の現状で返事をするのは憚れた。
黙り込んで拒絶する。
どうせ母だろうから直ぐに立ち去ってくれるだろうと思った。
 しかし、止むことなく扉は叩かれる。
次第に「とんとん」から「どんどん」になっていき音が激しくなっていく。
眉を寄せ痛む腕を見下ろして黙考する。
母は、一度呼んで返事が無ければ、用件を書いた紙を扉に貼り付けてその場を去る。
そして、母以外に部屋を訪れる者など、そうはいない。
時折訪れる学校の者ぐらいだ。
そこで悟る。
教師か生徒か、学校関係の者であろう。
この時期になると書類やら何やらと渡しに来る輩が増えるのだ。

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