《MUMEI》 天井の模様. 家に帰ってから、ベッドに横たわり、天井を見上げていた。 ずっと、頭から離れない。 公園で見た、あの、二人の姿が。 あまり聞こえなかったが、なにか、言い争っていたようだった。 その二人を取り巻く空気が、彼らが精神的に……もしかしたら、肉体的にも、近いのかもしれないと、思わせるものがあった。 身体の真ん中に、《なにか》が込み上げてきた。 その、痛みにも似た《なにか》は、いつまでも胸の中でぐるぐると渦巻いて、解放してくれることは、なかった。 俺はため息をついて、寝返りをうつ。 なんだか、イライラした。 それがなぜなのかは、分からないけれど。 …………なんなんだ。 一体、どうしたんだ、俺は。 そのとき。 部屋のドアが、突然開かれた。 俺は驚いて身体を起こす。 入口に母さんが、立っていた。 母さんを見つめ返して、俺は思い切り眉をひそめる。 「………急に、ドア開けんなよ」 俺の文句も気に止めず、母さんは呑気に「水臭いコト言わないの!」と答えて、つづけた。 「明日の午前中なんだけど、栞のところに行ってくれない?」 俺は首を傾げて、「おばさんのとこ?」と尋ねる。母さんは頷いた。 「スクールで使うお花を、買いに行きたいんですって」 栞おばさんは、母さんの妹で、近所のカルチャースクールのフラワーアレンジメント教室で、週に数回、講師をしている。 昔、事故に遭って両足が不自由になったらしいが、明るく元気な性格で、甥っ子の俺のことをよく可愛がってくれた。 「了解!」 俺が簡単に答えると、母さんも簡単な調子で「それじゃ、よろしくね」と言い残し、ドアを閉めた。 母さんが出て行ってから、俺はまたベッドに横になって、天井の模様を眺めた。 …………栞おばさんに会うの、久しぶりだな。 元気に、してるかな………。 遠い昔に見た、栞おばさんの笑顔を思い浮かべて、 俺は、ゆっくり、目を閉じた−−−。 . 前へ |次へ |
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