《MUMEI》 . 家に帰ってから、ベッドに横たわり、天井を見上げていた。 ずっと、頭から離れない。 公園で見た、あの、青年の姿が。 小さな子供のような目で、わたしと祐樹のことを、じっと見つめていた。 みっともない姿にうつっただろうか。 大人のくせに、あんなところで大声あげて口喧嘩していたのだから。 身体の真ん中に、《なにか》が込み上げてきた。 その《なにか》は、わたしの胸の中でムクムクと大きく広がり、押し潰していく。 わたしはため息をついて、寝返りをうつ。 なぜか、ソワソワして、落ち着かない。 それは、到底、理解出来ない気持ちだった。 …………なんだろう、コレ。 なんで、モヤモヤするんだろう。 そのとき。 ナイトテーブルに置いてあった、わたしの携帯が鳴り出した。 着メロは、カーラ・ブルーニの『ケルカン マ ディ』。 昔、好きだったフレンチポップス。 着信音は数秒間だけ鳴って、切れた。 ベッドサイドにいたヒューが、怯えたように鼻を鳴らした。彼は小さい頃から、機械音が苦手だった。 わたしはゆっくり身体を起こし、携帯に手を伸ばす。 すでに黙り込んだ携帯を開いて、 眉をひそめる。 ディスプレイには、 《未読メール 1件》の表示。 メールの宛先は、祐樹。 内容は、つまらないもの。 今日、ウチまで押しかけたことのお詫び。ケンカしたことの謝罪。 そして、 メールの最後に添えられた、メッセージ。 『もう一度、チャンスをください』 『百々子のことが、好きなんだ』 とってつけたような台詞たち。 心にちっとも響くことのない、軽薄な言葉。 それを読み終えたわたしの心は、ひどく冷え切ってしまった。持っていた携帯を、ベッドの上にぽんっと放り投げた。 −−−あなたが、わたしのことをまだ愛しているのだと、風のウワサで聞いたわ……。 不意に、『ケルカン マ ディ』の歌詞の意味を思い出した。 わたしはベッドに横になり、天井の模様を眺めた。 そして、その歌のつづきを口ずさむ。 −−−そんなこと、 ありえないわよね……。 わたしは、ゆっくり、目を閉じた−−−。 . 前へ |次へ |
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