《MUMEI》

「ふっ……!」
今度は俺がカウンターを食らう番だった。ザシュッと服が斬れ肉が斬れる音がして、赤い花びらが舞う。ラングが空中で放った斬撃に反応し切れず左肩を斬られてしまったのだ。とは言ってもさして深くはない。戦闘行動に何の支障もない。そう判断すると、着地したラングに再び肉迫する。
「闇よ集え……」
俺の言葉に呼応し、我が愛剣、影剣【常闇】に闇の粒子が集まって来る。闇の粒子に包まれ、一層の黒さを手に入れた【常闇】でそのままラングに斬りかかった。彼はそれを防ぐ。しかし若干よろけてしまう。その隙を見逃さずに追撃を与えていく。強化された【常闇】からの連撃に、とうとうラングも耐えきれなくなり、ガードを弾かれ無防備になった。大きな隙を見せたラングを思い切り蹴飛ばし、とどめを刺すべく魔法の詠唱に入った。
「穿て漆黒よ 討つべき白は眼前に横たわり執行の刻を待つ
『崩聖業槍』」
巨大な闇の槍が空中に突如出現。ラングへと向けて高速で飛んでいき、そして
ズドオオオオォォォオン……!!
轟音と共に闇色の大爆発が起きる。これならば死んだだろう、とは思うが何があるか分からない為警戒は怠らない。果たしてそれは杞憂では終わらなかった。視界の大半を占める煙の中に、何か蠢くモノが見える。
ラングだ。
「はあ、はっ、はっ、はっ……」
乱れに乱れた呼吸に血塗れの体。どう見ても満身創痍で、とてもじゃないが戦えそうには見えない。だからと言って油断は禁物だ。追い詰められて形振り構わなくなった手合いが最も怖い相手なのだ。
「……魔竜を、知っているか……」
突然の質問に俺は首を傾げるしかない。知っているに決まっている。知識というものは戦闘においても非常に役立つものだ。主の刃たる者として、より一層の鋭さを求めるのは当然である。
「闇属性の上位竜。その巨大な角を構えての突進は全竜種中でも最高の攻撃力を誇る。」
「……では、その突進を……食らったことが、あるか……」
こいつが何を言いたいのか、何をしたいのか、まるで分からない。竜使いだからといってまさか上位竜を従えている訳はないだろう。だから魔竜をここに連れて来る、という線は外れる。それを明らかにする為にも今は会話だ。
「ある筈がない。いくら俺が闇の加護を受けていて、闇属性の攻撃では死なないとは言っても、あんなものを食らったら無事ではいられない。」
俺の言葉にラングは「そうか」とだけ返して俯く。そして再び顔を上げた時、その目は変貌を遂げていた。瞳孔が縦に裂け、まるで竜のようだ。
「竜の力よ
闇と混じりて
禍々しきを為せ!」
聞いたことのない詠唱の後、ラングの雰囲気が変わった。更にとてつもない威圧感が放たれる。俺はこの感覚を知っている。これは

魔竜のものだ。

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