《MUMEI》
一章:出逢い
「あー、もう! 居るんだろ!? 開けるからなっ」
応答すべきかどうか迷っている間に、訪問者の方が焦れてしまったようだ。
いきなり怒鳴ったかと思うと、重たい音を立てて扉が開かれた。
其処に居たのは、小柄な男児で黒いランドセルを背負い手には横断バックがぶら下がっている。
柔らかそうな色素の薄い茶色混じりの黒髪が揺れて、子供特有の大きな目が更に丸くなる。
驚きを表すその顔に、ボクは見覚えがあった。
「うつ」
「馬鹿野郎! お前、何したんだよ? そんな血出して……とにかく、手当てしないと」
名を口に仕掛けたボクを遮り、顔色を無くした彼が怒鳴った。
ずかずかと断りもなく部屋に入りボクの腕を掴んでくる。
 間近で見る彼は、やはり記憶の中の幼児が成長したように伺えて戸惑いを隠せない。
死んでいる筈の彼が何故此処にいるのだろうか、と疑問で頭が一杯になる。
「ちょっ、この傷何だよ!? 何でこんなっ」
自傷の痕が残るボクの腕をまじまじと見て、男児が言葉を無くした。
酷く傷付いた顔でジッとボクを見上げてくる。
微かに腕を掴む手が震えていた。
「離せ。君には関係ないだろう」
冷めた声で言い放ち、振り解こうと腕を捩る。

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