《MUMEI》
一章:手当て
 安津 忠樹のフリーハンドによる地図を睨みながら宇津井 知有は着々と粟冠家に近付きつつあった。
学校付近にぽつんと建つコンビニを過ぎると、すぐ近くに自宅がある。
其処から100M程先の狭い路地を抜け、左に向かった所に木造の一軒家があった。
それが粟冠 倶利の家のようだ。
 玄関先に歩み寄りチャイムを押す。
ピンポーン、と高音の無機質な音色が響くのを待たずに扉が開かれた。
中から出て来た人物と接触しそうになり、反射的に後退る。
「あら、ごめんなさい。大丈夫?」
ぶつかり掛けて、相手も驚愕した表情で一歩退いた。
そして、柔らかな笑みと共にオレの身を案じてくれる。
その人は綺麗な女性だった。


 家の人に封筒を渡したら、真っ先に帰ろうと思っていた。
オレは倶利という人間が苦手なのだ。
会ったこともないのに苦手と言うのは可笑しいだろうか。
言い方を変えれば、天才と称されている少年が、正直怖い。
オレの痛い部分を、非情にも刺激する。
だから、オレは帰ろうと思っていたのだ。
しかしながら、玄関前で出会った彼女は、新なる試練をオレに下すのだった。
 今出て来た玄関に舞い戻った彼女に、片手で招かれる。

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