《MUMEI》
一章:手当て
戸惑いながらも誘われるままに中にと入った。
傘立てと靴箱が隅に置かれている。
靴箱の上には花が飾られていた。
残念なことに、男所帯で育ったオレには何の花なのか見当も付かない。
それでも、その花が玄関に柔らかな雰囲気を齎していることは解った。
傘立てには一本だけ、傘が立てられている。
彼女の物なのだろう、淡い落ち着いた色で、所々に花の柄が付いた傘だった。
 倶利の母だと推測される彼女は、肩まで伸びた真っ直ぐな黒髪を後ろで一つに結んでおり、薄くだが化粧もしている。
玄関先に腰を降ろし、肩に下げていた茶色い革の鞄を膝に置いて彼女がオレに視線を向けた。
「倶利のクラスの子かしら?」
オレは気を付けの姿勢で何度も頷く。
何故だか緊張していた。
そんなオレの姿を見た彼女が、口許を押さえクスクスと笑い出した。
「ごめんなさいね、笑ったりして。可愛いものだがら、つい。……お名前は?」
「あ、宇津井 知有です。えっと、安ちゃ……じゃなくて、担任から倶利君にコレ預かってきて」
横断バックから封筒を取出して差し出すも、彼女は小首を傾げてオレを見ていた。

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