《MUMEI》
百日草
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−−−次の日。



俺は栞おばさんの家まで、予備校のテキスト類を片手に、歩いて向かった。用事が済んだら、予備校に直行するからだ。

午前中にも関わらず、空高く昇った太陽はカンカンに照り付けていて、とても暑かった。

身体中から、止めどなく汗が吹き出す。
濡れたTシャツが肌に纏わり付いて、煩わしかった。


ようやく栞おばさんのアパートにたどり着く。


自宅から少し離れた、小綺麗な新築のアパート。
田舎には珍しく、バリアフリー様式だからこのアパートを選んだのだと、昔、栞おばさんから聞いたことがある。


ここの一室に、栞おばさんはひとりで住んでいる。


俺は1階の一番手前にある部屋のインターホンを押した。



数秒後、



ゆっくりと、少しだけ、玄関のドアが開いた。

俺はドアノブを掴み、一気に引く。


薄暗がりの中に、車椅子に腰掛けた栞おばさんがいた。


「いらっしゃい、将太くん」


明るい声でそういって、とびきりの笑顔を浮かべた。目元に、少し、柔らかいシワが出来る。

俺はその目を見つめながら、口元に笑みを浮かべた。


「久しぶり、おばさん。元気そうでなにより」


テキトーな挨拶を述べると、おばさんは嬉しそうに笑った。


「将太くんも、すっかり大人っぽくなっちゃって……あ、待ってて!すぐ出るから!」


言い切ると、おばさんは慌ただしく車椅子を巧に動かし、一旦、部屋の奥へ消えた。

そのまま待っていると、再びおばさんが現れて、一気に外へ出てきた。

ドアの鍵を閉めて、俺の顔を笑顔で見上げる。


「お待たせ〜!それじゃ、行こうか!!」


俺は頷いて、おばさんの後を追うようにアパートから出た。







栞おばさんが運転する、障害者用の車の中で、俺は助手席に座り、窓の外を眺めていた。

おばさんはハンドルを操りながら、呟く。


「今日はごめんね。付き合わせちゃって」


俺はおばさんを振り返り、気にしないでよ、と明るく言った。


「どーせ、予備校の講習以外は特に予定もないし」


すると、おばさんはクスクス笑う。


「姉さんも、同じこと言ってた。将太くんはヒマだから、こき使って構わないって」


その台詞に俺は眉をひそめる。俺の表情を盗み見て、おばさんはまた笑った。


「ヒドイわよねぇ。将太くんだってお年頃なんだから、ガールフレンドとデートのひとつやふたつ、あるでしょうに……」


おばさんの言葉に俺は苦笑する。


「そんなの、ないし。何てったって、灰色の受験生ですから」


肩を竦めるジェスチャーをすると、おばさんはまた笑った。


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