《MUMEI》 . 「送ってくれて、ありがとう」 駅に着くと、俺はシートベルトを外しながら、栞おばさんにお礼を言った。 おばさんはニッコリする。 「今度はゆっくり遊びにきてね。独り身は寂しいのよ」 冗談めかして言ったおばさんに笑顔を見せて、それじゃ!と呟き、俺は車を降りた。 栞おばさんはヒラヒラと手を振って、それから車を発進させた。 おばさんを見送ってから、俺はため息をつく。 …………さてと。 駅の時計を見た。 すぐに電車に乗れば、講習に間に合う。 けど。 …………面倒くせー。 身体動かして、なんか疲れたし、 今日は、サボろう。 そうひとり決めして、俺は駅から離れた。 宛てもなく歩いていると、 例の公園にたどり着いた。 昨日、あの犬を連れた女のひとが、男と言い争っていた広場だ。 好奇心から、公園の方をひょいと覗く。 しかし、だれもいなかった。 …………あれ?? 今日は、来てないのかな? 彼女の姿のない公園は、どこか寂しげでひっそりとしていた。 全く別の場所みたいに。 俺はなんとなく、その公園の中へ入った。 彼女が腰掛けていた、木陰のベンチまでやって来て、見下ろす。 じりじりとした太陽の日差しが、葉っぱに遮られて、少し涼しく感じた。 蝉の鳴き声が、俺の頭に降り注ぐ。 俺は、ゆっくりベンチに腰掛けた。 昨日、彼女がそうしていたように、ぼんやりと広場を見つめる。 蝉の声が喧しく鳴いているはずなのに、 どういうわけか、少し、遠ざかって聞こえる。 まるで別の次元から、響いてくるように。 ふと、視線を巡らせると、 そばに花壇があった。 そこに咲いている花は………。 「百日草……?」 紛れも無く、センターに咲いていた百日草と同じものだった。 そういえば、 学校とか公園に植えてあるって、 おばさん、言ってたな………。 ひとりごちながら、美しく咲き誇る百日草を見つめていた。 そのとき、 不意に、背後に視線を感じて、 俺は、 ゆっくり、 振り返った−−−−。 . 前へ |次へ |
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