《MUMEI》

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サプリメントを全部飲み終えると、お腹がいっぱいになってしまった。水分を取ったおかげで、食欲が失せたみたいだ。





…………かえって、身体に悪いんじゃないの?





皮肉ってやろうかと思ったが、やめた。

昨日みたいに、お母さんにまた泣かれたら、それこそ面倒だ。


わたしは椅子から立ち上がる。


「……ご飯、いらない」


それだけ呟き、ヒューを呼んだ。ヒューはすでにドッグフードを食べ終えて横になっていたが、わたしの号令に、スクッと立ち上がって、傍までやって来た。

お母さんはキッチンから慌ててこちらへやって来ると、「どうしたの?」と心配そうに尋ねる。


「具合、悪い?」


その質問に、わたしはゆっくり顔をあげて、お母さんの顔を正面から見据えた。

瞬きを一度して、そうだね、とはっきりした声で答えてあげる。


「具合は、悪いに決まってるよね。良くなることはもう、無いんだから」


飄々としたわたしの返事に、お母さんは絶句する。

わたしはため息をついて、テーブルの上に散らかっている、サプリメントのカラ袋を見つめた。





クシャクシャに丸めて捨てられた、ビニール製の、カラ袋。



もう、だれにも必要とされていなくて、



それが、不様で、情けなくて、



なんとなく、



わたしと同じだ、と思った。





わたしは顔をあげ、お母さんの顔を見つめる。

泣き出しそうな、戸惑ったような瞳だった。

不安げな双眸を覗き込みながら、わたしは唇を弓なりに歪ませる。


「これ以上、良くならないってわかっていても、こうやって、ワケ分かんないサプリ飲むなんてさ……なんだか見苦しいよね」





…………こんなの、望んでいないのに。





わたしの呟きは、重い響きをはらんで、お母さんの胸に届いたようだった。

お母さんは唇を震わせて、涙で潤んだ瞳でわたしを見つめ返すのがやっとのようだった。



…………面倒で仕方なかった。



わたしはお母さんから目を逸らし、ヒューを連れて、ダイニングをあとにした。




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