《MUMEI》
ファーストコンタクト
.




…………動けなかった。





身体が、石になってしまったように、



振り返った姿勢のまま、



彼女の姿を見つめていた。



だって、まさか、



いきなりこんなふうに、



突然、現れるなんて、



想像もしていなかったから−−−。





◇◇◇◇◇◇





彼はわたしを振り返った姿勢のまま、



動かなかった。



それは、わたしも同じだった。



だって、まさか



昨日の今日で、



こんなふうに、こんなところで、



再び、出会うだなんて、



想像もしていなかったから−−−。





◆◆◆◆◆◆





「………こんにちは」



先に、彼女が口を開いた。想像していたよりも、低い声だった。

彼女はつづける。


「昨日、公園の前の通りに、いたでしょう?」


フツーの言い方で尋ねてきた。
なぜか、俺は慌てる。


「あっ……昨日は、その………すみません。えっと………」


上手く言葉が出て来ない。

しどろもどろな俺を無視して、彼女はゆっくり近づいてきた。犬も尻尾を振りながら、一緒に歩いてくる。

彼女は言った。


「みっともないトコ、見られちゃったね。いい年して、ケンカなんてさ」


そして、フワリと笑う。


その微笑には、


この世のものではないような、


どこか、浮世離れした雰囲気があった。





−−−−そう。





それはまるで、





己が、散る瞬間を前に、



毅然として咲き誇る、





儚く、短い、花の命ような…………。





なぜ、そう思ったのか、



よくわからないけれど。



俺は、


まるで、吸い込まれるように、


彼女を見つめていた。



そして、



ぼんやりしている俺に、


彼女は、風のように囁いた。


「隣、座っても、いいかな……?」




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