《MUMEI》

(若いカップルなのかな…あんな裏に行ってどうするつもりなんだろ…)

カップルの消えていったそっちの方は、境内でも裏手の方で人も居ない所だった。

「どうした?」
「えっ、う〜ん…なんか気になったんで…」

そのカップルの事を話すと、克哉さんはちょっと困った顔をして『…かなただと思ったのか?』と聞いてきた。

「はい…だって、あの浴衣…僕が着付けしてあげたんで…」

僕の実家が華道の家元というのもあって、小さい頃から着物を着る機会がよくあった。

大人が着ている姿とかを見たり、それを手伝ったり自分も着させられたりして、今では完璧に着られるようになっていた。

なので、かなた君に着せてあげる時に覚えていたちょっと特殊な結び方で可愛く帯を結んであげていたのだ。

あのリボンにリボンをくっつけたような結び方はその辺ではなかなか見ないから、それらしい後ろ姿を見て気になっていた。

「ちょっと覗くだけ覗いて、違っていたら離れようか」
「……ちょっと…覗くだけですよね」

境内の裏に行った人達を覗くなんてちょっと気が引けるけど、二人でなんとなく通りかかったというカンジにすれば大丈夫かな…。

それよりも、その子がかなた君じゃないかっていう方が気になって、気持ちのソワソワ感が収まらなかった。

= = = = = = = = = = = = = = = = = = = =

アキラと一緒にそのカップルをちょっと離れた後方から眺めていると、やっぱり二人はただならぬ様子だった。

「もっと…近くに行けませんかね?」

アキラは俺の浴衣の袂を引っ張ると、確認が出来るくらいもっと近くに行けないかと言ってきた。

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