《MUMEI》
刻まれた言葉
“人間じゃないんだ…”

そう言えば、前もそんな事言ってたっけ…
それってこういう事?

「やっと信じたみたいだね。」
黙ったままの加奈子に男は言った。
その声には、今まで以上に陰がかかっている様だった。
「頭にさ、いつも響いてるんだ。刻み込まれてるって言った方が正しいのかも。」

加奈子の返事も待たず、男は更に話しを進めていく。
「男の声が聞こえてくるんだ。誰かは分からないけど…」


誰かわからない、か…。


「そいつにいつも聞かされてた気がする。それも、何処でかさえわからないけど…。」


正真正銘、記憶喪失ってわけね。


「そうそう、もう一個わかってる事があったよ。」

「何?」

「名前と年齢。
俺は今年ちょうど二十歳になった。」

「それって、つまり…」

「次の満月が、その時だ。」


男の鋭い爪が今にも加奈子に襲い掛かるが如く、鈍く怪しい光を放っていた。

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