《MUMEI》 泉はそれ以上何も言わず、 席を立とうとした。 「泉さん?」 その泉を、 麻倉が呼び止める。 「何だ?」 「…何でですか?」 「…? 何が?」 「この試合に勝ちたいって言ったじゃないですか。」 「…だから?」 「…」 この試合に。 試合ならいくつもやってきた。 ほとんどを勝利で飾っている。 何故… この試合に? 泉の言葉は、 何か引っ掛かる物があった。 「何か… 上手く言えないすけど…」 「…」 「…」 少し困った様子で、 泉は口を開いた。 「勝利中毒。」 「え?」 「クロが昔そんなこと言ってた。」 (クロ… あぁ… こないだの…) 「なんすかそれ?」 「さ〜な。 詳しくは知らない。 クロが勝手に言ってただけだから。」 「…?」 「最初はクロが言い始めた。 次はヤマト。 そして翔太。 俺たちは笑ってた。 こいつらバカだなって。」 「…」 「ただ…」 「…?」 「いつの間にか伝染してたみたいだな。 勝てないゲームは、 いつもつまんね。」 「…」 「悔いはない。 それは全部出し切って負けた時に言えることかもしんない。 でも俺は… まだ出し切ってないから。」 「…そすか。」 「麻倉。」 「はい。」 「お前はど〜よ?」 前へ |次へ |
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