《MUMEI》

ニコニコ顔のお母さんに、わたしは恐る恐る尋ねる。


「…………まさか、あのショッピングセンターに行ったんじゃ………??」


お母さんはキョトンとしながら、「うん」と頷く。





……………ビンゴかよっ!!





わたしは目眩がした。


「お母さん、この商店街の現状、わかってるの??」


あのショッピングセンターのせいで、不況の波を思い切りくらっているというのに。

呆れながら文句を言うと、お母さんは首を傾げた。


「いいじゃない、映画くらい。あそこくらいにしかないでしょう??」


のんびり答えたお母さんに、わたしはすかさず、「良くない!!」と叫んだ。


「商売ガタキのとこに、遊びに行かないでよ!!」


わたしだって行ったことないのにっ!という台詞は言わないでおいた。どーせヒガミにしか聞こえないだろうから。


わたしの怒鳴り声に、お母さんは顔をしかめながら、「怒らないでよ〜」と呑気に言って、それから倉澤と竹内さんの顔を見た。


「こちらは………?」


お母さんは、不思議そうに首を傾げながら、わたしの顔を覗き込む。わたしはため息をつき、答えた。


「そこの美大生サンたち。シャッターの塗り替えを手伝ってくれてるの」


ごく簡潔に説明を済ませた。わたしの言葉のあと、竹内さんがお母さんにペコリと頭を下げる。


「どうも、竹内です」


つづけて倉澤が無愛想に言う。


「倉澤です……」


すると、お母さんはヘンな顔をして、倉澤を見た。


「クラサワさん……?」


倉澤もヘンな顔をして、「ハイ」と返事をする。当たり前だが、彼はお母さんのことはわからないみたいだ。

不思議に思って、わたしはお母さんに尋ねる。


「知ってるの??」


わたしの問い掛けに、お母さんは振り返る。


「今日、ショッピングセンターでイベントのポスターを見たんだけど……」


そこまで言って、また倉澤を見る。

そして、推し量るように、言った。


「現役美大生の、個展をやるとかで……」





−−−そういえば。



長島君も、そんなことを言ってた気がする。



確か、アーティストの名前は……。





………。





だれだっけ??





.

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