《MUMEI》

ラングは剣を持つ右手を引き、空いている左手を俺に向けて突き出してきた。一般的な刺突を放つ際の溜めのポーズだ。しかしそれだけでは終わらない。濃く、深い闇が彼の剣に渦を巻くように収束していく。それを一目見て分かった。あれは角。魔竜の角だと。そして完成前に潰さなければ負ける、ということもだ。だが俺の行動は遅過ぎた。
「竜剣…………魔竜角!!」
完成した漆黒の角を前方に突き出して突進してくる。そのスピードが凄まじい。瀕死の重体で出せる速さではない、というか明らかに最初よりも速い。驚きの所為もあり、俺は避けることが出来なかった。
「がっ……ぁ……!?」
皮を、肉を、腸を、骨を、あっさり貫き血を被って尚、闇の角は漆黒のまま。とんでもない威力だった。突き刺さった際の衝撃で体中の血管や神経がズタボロになっている。加護の力が血液の流出を抑えているものの、このままではいつ出血多量で死ぬか分からない。では加護が無ければ? 決まっている、即死だ。あんなもの人間が耐えられる威力じゃない。そんな威力を瀕死の状態で繰り出せるラングという男に、俺は人生初の感情である、戦慄を覚えた。
「…………」
ラングが俺の体から無言で剣を引き抜くが、最早痛覚が反応しない。神経があらゆる場所で途切れているのだ、それは"痛み"という信号も届かないだろう。だが、そんな生物として致命的な状態でも思考は冷静だった。だから考える。
彼は何故闇の技を使った?
俺が闇の加護を受けていることは既に伝えられていた。にも関わらずラングはあの技――魔竜角を使った。彼が闇属性だから、と言ってしまえばおしまいだが、先程見せたあの身体能力があれば剣一つ、それどころか身一つでも俺を倒せた筈だ。あれ程の力を持ちつつ始めから使わなかった、という疑問もあるが、そちらは体への負担が大きいからと考えれば納得できる。現に彼は今にも倒れてしまいそうだ。しかし闇の技を使った理由が分からない。まるで、

――まるで俺を生かそうとしたかの様ではないか。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫