《MUMEI》

本当に欲しいものは、どちらなのだろうか。
勝手な疑問は次々に浮かぶ。
消えてはいかない。
浮遊したまま残るのだから始末に終えぬ。
 知有の体に腕を回し軽く抱き締める。
柔らかな髪に鼻先を埋めた。
この甥が愛しくて堪らない。
同情や憐れみからくる感情ではない。
なら何だ、と聴かれても答えられないだろう。
彼への愛情は、酷く榛伊の胸を掻き乱すのだった。
 二人の親子が通り過ぎても、知有は道路を見ていた。
もう10分程経つ。
無言で前を見据えているだけ。
表情は解らない。
「出掛けるぞ」
素っ気なく告げて知有を庭に下ろす。
待ってろ、と言い含め家の中に入った。


 戸締まりを済ませ近所の駄菓子屋まで歩く。
知有の手を握り締め無言で歩いた。
知有の小さな手は、すぐに離れてしまいそうで心許ない。
榛伊が彼にしてやれることは、たかが知れている。
繋ぎ止めておくぐらいのことしか出来ないのだ。
 駄菓子屋は子供で賑わっていた。
 実のところ、榛伊は子供が苦手だ。
どう扱って良いのか解らない。
だから結婚する気も無かった。
――未婚の父、に似ているのかもしれないな。
何となく、そう思う。

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