《MUMEI》 悲劇しばらく走って戻ると智の姿が見えてきたので、俺は智の名を呼んで呼び止めた。 その声に反応して、智が振り返る。 「あ?どうしたんだよ。お前ら、帰ったんじゃなかったのか?」 「帰ろうと思ったんだけど黎夜がさ、海帆ちゃ……!?」 戻ってきた俺達に対しての質問に、椋は素直に説明をしようとする。 俺は慌てて椋の口を塞ぎ、それを阻止した。 「な、なんでもねぇよ。ただ、たまにはこっちから帰るのもいいなって思っただけで」 「何だそれ。変な奴ら」 何も知らない智は、笑いながらそう言った。 椋はといえば、苦しそうに「んん〜、んん〜!!」と俺の手を叩きながらもがいていた。 「…黎夜、椋を離して喋らせてやれよ」 「あぁ、そうだな。ほれ」 「んん〜…プハッ!な、何すんだよ黎夜!?」 椋は少し涙目になりながら抗議をしてくる。 まったく、自分のしたことを分かってねぇな。 「うっせー。お前が余計な事を言おうとするからだ」 「余計な事じゃないじゃんか」 「言わなくてもいい事を余計な事って言うんだよ」 「そんなこと分かってるよ!」 俺と椋が口論をしているのを見て、智は「まぁまぁ、喧嘩すんなって。早く帰ろうぜ」と俺たちを宥める。 それに対し椋は「でも、黎夜が〜!」と反論をしている。 「おい椋、人のせいにすんなよ。俺は正しい行動をとったまでだ。」 「だったら理由を説明してくれよ!」 「…ったく、二人でそうやっていつまでも言い合いしてろ。俺は先に失礼するぜ」 そう言った智が俺達を置いて歩きだした。 智と一緒には帰る。 でも、その前に目の前にいる椋にちゃんと口止めしておかなきゃな。 「いいか、智には柊からの質問の事は言うな」 「どうして言っちゃいけないんだよ?」 「あれは単なる俺の勘違いかもしれないだろ?嫌な予感がしたのはあくまでも俺の感覚なの!!」 そう言っても、椋は全く理解しないで「だ〜か〜らぁ〜、それがどうして言っちゃいけない理由になるんだよ!?」なんて言ってくる。 まったく、なんで1〜10まで説明しなきゃいけないんだよ。 俺は、やけになって椋に説明した。 「だ〜か〜らぁ〜、俺の勘違いで智には余計な不安を与えたくないからだよ!」 「智の事を考えてってこと?」 「そうだよ!さっきからそう言ってんだろーが」 「黎夜が、分かりにくい言い方するから分かんないんだよ」 「椋の理解力がないだけだろ」 「なんだよそれ〜!あんな遠回し「危ない!!」」 「!?」 椋の言葉をかき消すように聞こえた『危ない!』という声とほぼ同時に"ドスン"という 鈍い音がした。 何事かと思い、椋と二人で音がした――智が立ち去って行った――方を見た。 すると、そこには……… 車にはねられ、血を流してピクリとも動かずに倒れている智の姿があった。 「……と、智――――――!!」 前へ |次へ |
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