《MUMEI》

そんなユウゴの思いなどまるで気付かないケンイチはご機嫌な様子で織田に話しかけていた。
しかし、その呼びかけに織田は答えようとしない。
ただ無表情な顔で眉だけをぴくりと動かした。
そして何かを気にした様子で周りに目を向ける。
「どうした?」
そう言った直後、ユウゴにも彼が何を気にしているのかがわかった。
少し離れたビルの陰からこちらを見ている男がいる。
その恰好からして追撃隊ではないようだ。
しかし、一般人にしては雰囲気が妙だ。
男はこちらに顔を向けたまま動こうとはしない。
「……あいつ、気付いてるのか?」
声をひそめてユウゴは織田に聞く。
「わからない。だが動く気配はないな」
「え、なにが?」
一人男に気付いていないケンイチが不思議そうに首を傾げる。
その声に緊張感はない。
ユウゴはため息をついてから、ケンイチに目で男のことを教えてやる。
その視線を追ったケンイチはようやく納得したのか頷いた。
「ああ、あれか。……奴らじゃないみたいだけど」
「ああ、そうだな」
織田は頷くが、その声は緊張したままだ。
ユウゴたち三人は男がいるビルの前をそのまま通り過ぎる。
その途中、ユウゴは気付かれないように男の顔を盗み見た。

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