《MUMEI》

「なあ、どうしたんだよ?」
歩きながらケンイチは怪訝そうな表情で織田に聞いている。
しかし、織田はただ無言で歩き続けているだけだ。
やがて裏通りが終わりを告げ、多くの人が行き交う大通りに出た。
その人込みを少し進んだ直後、織田は角を曲がる。
どこかへ向かっているのだろうかと思っていたユウゴだが、その瞬間そうではないことに気がついた。
ユウゴは何気ない仕草でそっと後ろを振り返る。
後ろには数人の男たちがユウゴたちの歩くスピードに合わせているように歩いている。
それを確認すると、ユウゴは「やっぱりか」と小さく呟いた。
その声に気がついたケンイチは「え、なに」と眉を寄せてユウゴに顔を向ける。
そんなケンイチを無視してユウゴは少し前を行く織田の隣に並んだ。
「いつからだ?」
「あの不審な男がいたビルから出て来たようだ」
織田の言葉にユウゴは小さく頷いた。
「やっぱ、あいつは一般人じゃなかったか」
ユウゴが言った時、後ろからケンイチが肩を叩いてきた。
「なあ、なあって!」
「なんだよ?」
「後ろから変な奴らついてきてんだけど。ほら」
ケンイチは言って後ろを振り返ろうとする。
それをユウゴは慌てて止めた。
「馬鹿、振り返るなって。わかってるよ。尾行されてんだろ?」
「え、なんだよ。知ってたのかよ」
「当たり前だ。おまえじゃあるまいし。にしても、なんで襲ってこないんだ?」
「さあな。ここはまだ人の数もある。様子を伺っているんだろう」
「だったら、こっちから仕掛けるか」
ユウゴが言うとケンイチがニヤリと笑みを浮かべた。

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