《MUMEI》

「よく見ろよ、そいつ」
ユウゴが言うとケンイチはそこに倒れた男を見下ろす。
打ち所が悪かったのか、軽く白目を向いて意識を失っている男はスーツを身につけている。
彼の顔から察するに、おそらく年齢は40歳以上だろう。
近くには黒く四角い鞄が転がっていた。
「……誰これ?」
眉を寄せ、不思議そうな表情をしながらケンイチはしげしげと男を眺めている。
「ただのサラリーマンだろう」
織田が冷静な口調で答えた。
するとケンイチは「あー、俺ってば間違えたか」と頭を掻いてから「悪い」と気絶している男に謝った。
「で、俺の相手はこいつなわけだ」
ケンイチの視線がさっきから黙ってこちらの様子を見つめている男に向く。
「どうやらこいつはもう準備オーケーみたいだけどな」
ユウゴは男の手を見ながら言った。
そこには短刀が握られていた。
さらに織田が倒した男がよろけながらも立ち上がってきた。
ユウゴが倒した相手は完全に意識を失っているようだ。
「すまない。少し浅かったようだ」
織田がさして悪びれた様子もなく謝る。
「ま、いんじゃね? あとは俺に任せとけ!」
ケンイチは言うとバッグの中から銃を取り出した。

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