《MUMEI》

混乱し座り込んでしまったまま阿騎を見上げた。

「大丈夫?」

そう言ってオレの手を取り腰をもって上体を起こさせる。

「耳、敏感なんだね。」

茶化すような鳶色の目が自分を見る。

「なっ何してんねん気持ち悪いっ。」

「気持ち良くて腰砕けたんじゃないの?」

そう言って腰にあった手を顔に上げてクイ、とオレの顔を自分に向かって上げさせた。

「とりあえずっ、放せっ!」
更なる嫌な予感にとらわれ這うようにしてアキから逃げる。

「あ、朝飯までもう少し寝てくる!」

踵を返してなんとか歩き出す。

「リュウ。」

「何や?」

「お弁当も作ってくれると嬉しいな。」

「…わかった。」

背を向けた後ろの男の口が綺麗な三日月に歪んでいた事は知らない。

こんな振る舞いにも拘らず出ていかなかった自分。
早くも後悔三歩目。

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