《MUMEI》
待ち合わせ
.


昼近くに起きて、わたしはベッドから抜けて、顔を洗いに洗面所へ向かった。


鏡に、自分の顔がうつる。


昨日よりもまた、顔色が悪くなった気がする。


不安な気持ちに気付かないフリをして、水で顔を洗った。

柔らかいタオルで顔についた水滴を拭いながら、もう一度、鏡を覗き込む。


以前より、くすんだ肌。目の下にぼんやり浮かんでいるクマ。乾いた唇。





キレイじゃない………。





そんなこと、わかっている。

みんなと同じように飾っても、


なにも変わらないって、





諦めてる。





……………でも。





わたしは鏡にうっった自分の顔から目を逸らし、再び、自分の部屋へ戻った。


部屋に入ると、ヒューが入れ代わりに廊下へ出て来た。おそらく、お母さんにご飯を貰いに行くのだろう。そのままパタパタと、1階へ降りて行った。

ヒューの姿を見つめてから、わたしは部屋のドアを閉める。

窓際のキャビネットへ向かい、その一番奥にあるバニティバッグを取り出した。

イエロー地に、かわいい犬のマスコットが描かれている、バニティ。

これを取り出したは、本当に久しぶりだった。

わたしはバニティを開け、中を覗き込んだ。

中には、たくさんの化粧品が入っている。

わたしはそこからパウダーファンデーションと、ピンクのリップグロスを取り出した。

ファンデーションのコンパクトを開き、付属のパフにパウダーを少し載せ、肌に滑らせる………。


くすんだ肌に、少しだけ透明感が増した気がした。


丹念にファンデーションを載せると、コンパクトをしまい、次にリップグロスを手に取った。

ピンク色のグロスを、丁寧に唇へ載せていく。


仕上がった顔を見ると、最初、洗面所で見たときよりも、健康的な顔立ちに思えた。


わたしはバニティにコンパクトとグロスをしまうと、立ち上がって部屋を出た。


1階の居間に入ると、お母さんはダイニングテーブルの椅子に腰掛け、テレビを眺めていて、ヒューはすでにご飯を食べ始めていた。

わたしの気配に気づき、お母さんが振り返る。


「おはよう」


爽やかな挨拶のあとに、わたしの顔を見つめて首を傾げた。


「……お化粧、してるの?」


わたしは、ちょっとね、とだけ答えて、ダイニングに座る。


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