《MUMEI》 . お母さんは珍しいモノでも見るように、わたしの顔を見つめた。 「どうしたの?今日、どこか、出掛けるの?」 わたしは少し黙り込み、それから答えた。 「ちょっとね、約束しててさ。ヒューと一緒に遊んで貰うの」 お母さんはなにか考えるように数回瞬いて、言った。 「高橋さんに?」 突然出てきたその名前に、わたしは顔をしかめた。 「なんで祐樹なのよ」 不機嫌そうに尋ねると、お母さんは意外そうな顔をした。 「違うの?」 「違う。全然、違う。祐樹とは、連絡とってないもの」 「じゃあ、どなた?」 切り返されて、わたしは黙り込んだ。何となく、説明しづらかった。 昨日、知り合ったばかりの将太のことを、どうやって話せばいいのか、わからなかった。 わたしはため息をついて、ご近所のひとよ、と素っ気なく答えた。 お母さんは不思議そうな顔をしたが、それ以上質問はせずに、椅子からゆっくり立ち上がり、「朝ご飯、用意するわ」と呟いたが、わたしは拒否した。 「いらない。欲しくない」 簡単に答えると、お母さんは少し間を置いて、「それじゃ、サプリメント持ってくる」と言い残し、キッチンへ向かった。 わたしは黙ったまま、足元のヒューを見る。 彼はすでにドッグフードを食べ終えて、満足そうな顔をしてわたしを見つめていた。 ヒューの頭を撫でてあげると、彼はうれしそうに舌を出した。 じきにお母さんがたくさんのサプリメントと水を持ってダイニングへ戻ってきた。わたしはそれらを受け取り、順番に飲みはじめる。 お母さんはわたしの様子を見守りながら、ぽつんと呟いた。 「……外、暑いから体調だけは気をつけてね。百々子は普通のひとと違うんだから」 わたしはちらっとお母さんの顔を見た。 お母さんは真剣な眼差しをわたしに向けていた。 心配してくれているのは、よく、わかる。 でも、 そういう、腫れ物に触るみたいな扱い方は、 どうしても、好きじゃない………。 だって、 身体のことを忘れようにも、 忘れられなくなるから。 わたしはお母さんの言葉が聞こえなかったフリをした。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |