《MUMEI》
"大人"?の事情
魔界は多くの者が騒ぎを起こして騒いでいた。
何しろ魔界の姫が人間界で暮らすことを決めたのである。今まで今回のようなことは無かったのもあり前代未聞の騒ぎとなった。

そんな中、
魔王"シギ"と神"静負"、
慈悲の女神"生喪"と暴神"タハキ"

この四人は皆、同じ部屋に居た。先程までシギと静負が居た部屋である。
その中で一際目立った行動を見せているのは魔王シギだった。

「うおぉぉ……何故だ…ミスアぁぁぁ…父さんが嫌いになったのかぁぁぁ…!」

左手と両膝を床につけ、涙目になりながら右腕で床を叩いている。
見方によってはリストラされたサラリーマンを連想させる親を見て、その場の神三人は苦い顔で顔を見合わせている。

それぞれ、静負は苦笑でシギを見下ろし、
生喪は微笑みが少し困った顔に変わりながらシギを見ている。
タハキにいたっては必死に笑いを堪えているのか口元を抑えながら肩が小刻みにふるえている。

「いやー…こんなシギは久しぶりにみたなぁ…こりゃあしばらく立ち直りそうにないねー…」

「あらあら〜まあまあ〜…どうしましょう〜…」

「………っ………っ…!」

静負や生喪が哀れみの言葉をかけている間、タハキはまだ笑いを堪えている。そして…

「…っはっ…!はっはっはっはっはっはハーッハッハッハッ!!アーッハッハッハッハッハッ!」

…崩壊した。

「なっ!何がおかしい!!」

シギがピタリと涙を止め、タハキに向き直る。

「いやっだって!おかしくて!!自分の娘が自分から!初めて!自分の意志で!行動したことが…本当にそんなに悲しい事かい?」


その言葉にシギは何も言えなくなる。
そうなのだ、ミスアが自分から行動に出たのはこれが初めてであり、今まではシギが言うとおりにただ動いていた。

いつの間にかタハキの笑いも止んでいる。

「神としてではなく、同じ、子を持つ親の立場から言わせてもらうなら───それはとても喜ばしいことであり、悲しいことでは無いだろう?」

「…そう…なのかもしれんな…だが、こんな時どうすればいいのか…俺は知らない…」

自信なさげな声で言うシギにタハキではなく女神である生喪が声をかけた。

「見守って…あげてみてはどうでしょう?初めてなことは誰しも完璧にと言うのは無理ですが…見守り、間違った方向に進みそうになったら正してあげる。それは当たり前のことですが…親であるあなたがしてあげるべき事ですよ?」


静かに、その言葉をシギは聞き、やがて納得したように頷いた。

「わかった…やってみよう。」

シギの顔は魔王としてではなく、どこにでも居るような、親としての静かで優しい笑顔が浮かんでいた。


そんな友人を見て静負は誰にも聞こえぬような声でつぶやいた。

「…いいなぁ…子供かぁ…私も良い人でも見つけるかなぁ…」

そんな言葉は誰にも届くことはなく、静かな笑みのみが寂しく残った。



───それは間違いなく神達の"日常"だった。いつもどおりの当たり前の日々、

ただ一つ違うのは、そこにいる皆が形はそれぞれの、心からの笑顔を見せていたこと───

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