《MUMEI》 . 目が覚めたときには、昼近くになっていた。 俺はベッドから飛び起きて、ベッドサイドに置いてある目覚まし時計を掴み、食い入るように見つめる。 「………ウソだろ」 百々子さんとの約束の時間まで、あと30分しかないという、この状況。 夢であると思いたい。 慌ただしくベッドから降りて、あちこちに身体をぶつけながら、一気に居間へ駆け込んだ。 居間には、母さんがテレビを見て笑っている姿があった。 母さん、いたのか。 …………てかさぁッ! 「なんで起こさねーんだよ!!」 呑気な母さんを怒鳴り、俺はキッチンへ駆け込む。無論、朝食の用意などない。 冷蔵庫を開けて、適当な食べ物をあさっていると、母さんが欝陶しそうに声をかけてきた。 「なによ、騒がしいわねぇ」 文句を言う母さんを、俺はハムを口に放り投げながら、睨みつけた。 「遅刻したらどーすんだよッ!!」 精一杯恨み言を言うと、母さんは意外そうな顔をした。 「講習なら、まだ時間あるじゃないの」 俺はキッチンの棚に置いてあったパンを掴む。 「予備校の前に、約束してんの!」 そう答えて、口の中にパンを押し込む。母さんは、「約束ぅ?」と眉をひそめた。 「だれと?」 尋ねられて、思わず動きを止める。何となく、説明しづらかった。 昨日、知り合ったばかりの百々子さんのことを、どうやって話せばいいのか、わからなかった。 悩んだあげく、結局俺は、登だよ、と適当に答える。 「授業の前に待ち合わせて、予習!」 俺の返事に母さんは感心したように唸った。 「あんたにしては、ずいぶん真面目じゃない」 …………どーいう意味だよ。 . 前へ |次へ |
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