《MUMEI》 夢を叶える為の時間. 「遅れてすみません!!」 息を切らせて将太は言った。キャップのツバの下から覗く額から、大量に吹き出す汗を、豪快に腕で拭う。 その様子に、わたしは笑った。 「走らなくてもいいのに。そんなにヒューと遊びたかったの?」 わたしがからかうと、彼ははにかんだように笑うだけで、なにも答えなかった。 それから、将太は手にしていたファイルをベンチに置いて、ヒューに顔を向ける。 「今日は、なにする!?」 彼の爽やかな呼びかけに、ヒューは興奮したのか、尻尾を左右に振り、地面にペタリとへばり付いた。『遊んで!』のサインだ。 わたしはいつものベンチへ向かい、腰を降ろした。 将太が一気に駆け出す。それを追いかけるヒュー。 小さな二つの影が、地面の上を舞う。 縺れ合い、ぶつかりながら、駆け回る。 …………わたしはとても、身体がだるかったけれど、 将太とヒューから目が離せなかった。 眩しい、夏の情景に、 心を、奪われて………。 「百々子さん!!」 不意に、将太がわたしを呼んだ。わたしは彼の顔を見つめる。 彼はヒューと取っ組み合いながら、眩しい笑顔を浮かべて言った。 「ボール、ありませんか?」 その言葉に、わたしは家から持ってきた野球ボールを、彼に見えるように掲げた。それを見たヒューは顔を輝かせる。 将太もうれしそうに笑い、さらに言った。 「こっち!パス!!早く!!」 わたしは笑った。 ベンチから立ち上がり、ボールを構える。 「行くよー!!」 一声、かけてから、ボールを思い切り投げた。久しぶりの運動に、肩が軋む。それでも気にならなかった。 ボールはゆっくりと弧を描き、将太のいるちょっと手前でバウンドする。そこをすかさずヒューが、ボールを奪い、逃げ出した。 「あっ!!ずるいぞ、ヒュー!?」 非難の声を上げながら、将太がヒューのあとを追う。ヒューは彼にフェイントをかけながら、広場を走り回った。 . 前へ |次へ |
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