《MUMEI》

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のどかな風景を見つめながら、わたしは再びベンチに座る。



ねっとりとした夏の風が、吹き抜けた。



色とりどりの百日草が、微かに揺れる。



蝉時雨の中、はしゃぐ将太とヒュー。



暑さに堪えられず、俯いて、ため息をついた。



そのとき………。



ふわりと、頭になにかをのせられて、ビックリしたわたしは顔をあげた。


いつの間にか、寝癖頭の将太が目の前にいた。


わたしは頭に手をやる。

帽子だった。

将太が被っていたキャップが、今、わたしの頭にある。


将太は汗だくのまま爽やかにほほ笑み、言った。


「被ってて。走るのに、邪魔なんだ」


言い終えるなり、再びヒューのもとへ駆け出す。

その背中を見つめながら、


胸の奥がじんわりと、


熱くなっていくのを感じていた。





わたしの時間には、《永遠》なんてない。



もうじき、終わりが訪れる。



それは、わかっている。



でも、今は、



お願い…………。



夢を見させて。



《永遠》に、覚めない、



優しい夢を−−−−。





将太がヒューを捕まえて、ボールを奪い取る。

将太は笑いながら、ボールを構えて叫んだ。


「遠くに投げるぞー!!」


思い切り肩を振り、ボールが青空を舞う。ヒューが空を見上げながら駆け出して、ジャンプした。下降してきたボールを、口で見事にキャッチする。

それを見た将太は興奮したように言った。


「すっげー!!成功!!見た、今の!!」


彼はわたしを振り返って大声で言った。わたしはほほ笑んで頷いた。


「すごいね」


ヒューは得意そうにボールをくわえて、将太のもとへと戻ってきた。その勢いのまま、彼に体当たりをする。

将太は笑顔でヒューの頭を撫でた。

お互い、すっかり打ち解けているようだ。


二人の姿を眺めながら、


わたしはまた、笑った。



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