《MUMEI》

こっちにもしばらく居るのでそれにも慣れてきて、じゃがいもとか人参とか、あとちょっと知らない野菜にも面白そうなので手を出したりして楽しみながらお買い物をしていた。


「エントゥシュルディグング フロイライン(どうも、お嬢さん)…コンニチゥワ」
「ぁ…こ…こんにちは」

急に『こんにちわ』なんて日本語で話しかけられたので、驚いて声のする方を振り向くと、知らない男の人が立っていた。

また、この人も僕を女と勘違いしてるんだな…いいかげんにしてよ…。



そのドイツ人の男の人はずいぶん色々と話しかけてきて、僕の手をいきなり握ってきた。

わっ!何だコレ///

こんな人初めてだ…ど、どうしよう…。

「ゲーエンヴィァ エトヴァス トゥリケン…(飲みに行かないかい?)」

彼はそういうと親指と小指を立てて何かのジェスチャーをしてきた。

”トゥリケン”は”飲む”って意味なのはくるみちゃんと一緒にドイツ語の勉強をして覚えた。

だから多分、飲みに行こうとか…そういう意味だ。

「…ライダァ…ニヒトゥ(無理です…すみません)」

無理です…と言って首を振るジェスチャーをしてみたけど、彼は今度は英語で話しかけてきて、どうにも諦めてくれる様子は無かった。

(困ったな…どうしよう…くるみちゃんも居るのにι…あれ、くるみちゃんは?)

そういえば、今まで側に居た筈のくるみちゃんの甲高い声が聞こえなくなっていた。

(もしかして、はぐれちゃった!?)


そう思って背中がヒヤッとした瞬間、男の人が低いうなり声を上げて膝を抱えていた。

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