《MUMEI》
気になる相手
.




しばらく、沈黙がわたしたちを包んだ。



将太は、この重苦しい空気に気付いたのか、戸惑った表情を浮かべて立ち尽くしていた。



…………将太は、《わたしのこと》を知らない。



いいえ、


彼に限らず、



わたしを取り巻く、みんなに言えること。



知っているか、



もしくは、知らないか。



それだけの、違い−−−−。





ただ、それだけで、



わたしに投げかける、言葉が変わってくる。





それだけ、なんだ…………。





将太の顔を見つめた。





…………もし、





今、ここで、





わたしの身体のことを、将太に打ち明けたら、



彼は態度を変えるだろうか…………。



ほかのみんなと同じように、



気難しい顔をして、



ぎこちなく笑って、



腫れ物を触るように、





わたしを、扱うだろうか−−−−。





将太は心許ない様子で、わたしの表情を伺っていた。

まるで、イタズラがバレたときのヒューの顔のような。



頭の中で、その二つの表情が重なって、


つい、わたしは、プッと吹き出した。



「ヘンな顔〜!!」



将太を指さしながら、明るく笑った。わたしの表情が変わったことに驚いた将太は、途端、慌てだす。


「な、なんですか!?ヒトの顔見て、笑うなんて!!」


わたしは彼の抗議の声を無視して、笑いつづけた。

将太は諦めたように深々とため息をつき、それでもどこか安心したような顔をした。



今は、



まだ、いい。



もう少しだけ、このまま、



なんにも知らない、純粋な彼と、



フツーに関わっていたい…………。





そのとき。





将太のドキュメントファイルに入っていた彼の携帯が、突然震え出した。

規則的なバイブレーションの音に、わたしたちはハッとした。

携帯は、数秒間震えつづけ、そのうち黙り込む。

それでも、将太は動かなかった。携帯を取り出そうと、しないのだ。



不思議に思って、声をかけようとしたとき、



再び、彼の携帯が震え出す。



わたしたちは、再びファイルに目を遣る。



それでもやっぱり、将太は動かない。



「………鳴ってるよ?」



見兼ねて言ってやると、そこでようやく将太はファイルに近寄り、携帯を取り出した。

慣れた手つきで操りながら、未だ鳴りつづける携帯のディスプレイを、一瞬だけ見つめる。


相手を確認し、


少し、考え込むようにしてから、





電話に出た。




.

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