《MUMEI》 . 「もしもし?」 俺は不機嫌な声で言った。 なぜ、コイツから電話がかかってくるのか、わからなかったからだ。 俺の声を聞いて、 相手が呑気に答える。 『あ、中原??のぞみだよ!』 その声は寝起きだな〜??と、トンチンカンなことを言い出す。 俺はため息をついて聞いた。 「……なんの用?」 素っ気なく言うと、のぞみは笑った。 『冷たいなぁ!!せっかく心配して電話してあげてるのにー!』 「心配?なんで??」 俺が尋ねると、のぞみはクスクス笑う。 『《なんで??》、じゃないでしょ!?昨日も今日も予備校休んでさ〜!この不良めッ!!』 のぞみの軽やかな笑い声を聞きながら、腕につけているダイバーズウォッチを見た。 予備校の講習はすでに始まっている。この時間は、いつもの通りならば休憩をはさんでいる頃だ。 タイムスケジュールを思い浮かべている俺の耳に、のぞみのすねたような声が流れてくる。 『メールもシカトするしさぁ、風邪で寝込んでるのかなって………ほら、《夏風邪はナントカがひく》ってよく言うじゃん!?もー心配で、心配で!!』 のぞみの呑気な声を聞き、半ば呆れた俺はため息をついた。今日はやたらテンションが高い。 「風邪なんかひいてねーし。てか、なにそれ?バカにしてんの?」 俺の文句に、のぞみは可笑しそうに笑い声をあげる。 『とりあえず元気なんだね、安心したよ』 急にしっとりした声で言われたので、戸惑った。俺は、おう…と曖昧に返事をする。 そして、背中に視線を感じ、肩越しに振り返り、驚く 百々子さんとヒューが、ジーッと俺のことを見つめているのだ。 しかも、どこか、冷めたような目で。 「用は、それだけ??俺、今、出先なんだけど」 二つの視線に慌てた俺は、すぐさま電話を切ろうとした。 しかし、のぞみは食い下がる。 『出先ってどこ??ひとり………じゃないよね?』 いきなり質問されて、俺は言葉に詰まった。 なぜ、そんなことを聞くのだろう………。 俺は考え抜いて、ようやく答えた。 「どーでもいいじゃん。お前に関係ないだろ??」 冷たい言い方になってしまった。のぞみは図星だったようで、一瞬、押し黙る。 少し間を置いて、小さな声で答えた。 『………気になるんだもん』 俺は眉をひそめる。 《気になる??》 「なんで??」 フツーに聞き返すと、突然、のぞみは怒り出して、金切り声で言った。 『いちいちそんなこと聞くな!!自分で考えろ!バーカッ!!』 直後、プツリと電話が切られる。 わけが分からず、俺は呆然と自分の携帯を見つめていた。 . 前へ |次へ |
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