《MUMEI》
最後の言葉
智の家族が完全に出て行ったのを確認し、俺は話を切り出した。





「…で、話は何だ?ってか、こんな喋ってて大丈夫なのかよ?」

「大丈夫……かな。いや……訂正…ちょっとヤバイかも」





俺の問いに、智は苦笑しながら答える。

俺はそれに対して、かるくため息をつきながら「ヤバイなら、もう喋んな」と諭した。

しかし、智は「いや…どうしても……お前ら…に言わなきゃ……いけない事…なんだよ」と言って聞こうとしない。


ったく、しょうがねぇな。

こんな状態でも智が言いたいことだ。
聞いてやるか。






「……分かったよ。
でも、無理のない程度にな」

「あぁ…」

「それで、何なんだよ?わざわざお袋さん達を追い出してまで言いたいことって」





それまで黙っていた椋が智に質問をすると、それまでとは違った真剣な表情をしてこう言った。






「……お前らに忠…告が…あるんだ……」





意外な言葉に、俺と椋は声をそろえて復唱した。






「「忠告?」」

「あぁ、忠告…だ。柊……柊には…気を付けろ」

「何でそこで海帆ちゃん?」

「そうだよ。柊は今、関係ねぇだろ?」

「違うんだよ……。
俺……思い…出したんだ」




そう言った智の表情は固く、何かを恐れているようだった。




「智?何を思い出したんだ?何の関係があるんだ?」

「……あの事故の時
…」




智が一番大事なことを言おうとしたところで、病室のドアの開く音がした。





「失礼します。そろそろご家族の方以外はお帰りください」

「えっ?朝までずっと居ちゃ駄目なの!?」

「患者の体に障ります。彼には今、ゆっくり療養することが必要なんです」

「…それじゃあ、仕方ねぇな。椋、今日は引き上げよう」

「うん…」






智の体に障るとあっちゃあ、しょうがない。
俺達は、素直に帰ることにした。





「智、話の続きは明日聞く。ゆっくり休んで、早くその怪我治せよ!」

「あぁ………黎夜…」

「ん?」

「俺達さ……やっぱり…柊に会った……こと…あるんだ」

「ったく、こんなときに何言ってんだ。余計な事考えないでしっかり休め。じゃあな!」

「……黎夜……」








あれが俺達が聞いた
智の最後の声だった。



あの時、智は何を思って俺の名を呼んだのだろう。


最後に聞いた



『……黎夜……』



と俺を呼ぶ声が、ずっと耳から離れない。


『あの事故の時』の
続きも気になる。







なぁ智、お前は俺達に何を伝えたかったんだ……?

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