《MUMEI》
こんにちはお隣さん
軽く体操をしてみると、関節という関節がゴキゴキと鳴って気持ち良……くねぇ!! いった!! 何だコレ!? どんだけ固くなってんだ!? 全身を走り回る激痛に、妙なポーズで悶えていると、スパンッと気持ちの良い音が響いた。
俺の頭を叩いた音だ。
「何やってんだよバカ兄。僕が恥ずかしいだろ。」
「しょうがねぇだろ、ずっと座りっぱなしだったんだからよぉ!」
「僕はサービスエリアに入った時に体解した方がいい、って言ったよ。やっぱりバカだね。」
実の兄にためらいなく手を上げ毒を吐くこのクソ生意気なガキは、俺の弟の桐生司。見た目は女の子みたいで可愛いのに、どうしてこんな性格なのか……。そして俺はこいつの兄の桐生楓。司と違ってちゃんと男らしい顔立ちだ。でも名前は女っぽいんだよな。何でも、俺は生まれる前は女の子だと思われていたらしく、だから女の名前を考えていたんだが、いざ生まれてみると男。しかし親父が「このままでいんじゃね?」とかほざき、お袋まで同意してしまった為、俺の名前は楓になったという訳だ。おかげで散々いじられたよ……チクショウめ……。
「ほら2人とも、君たちの荷物なんだから働いてー!」
重そうなダンボール箱を抱えて叫んだのは俺たちの叔母さんの静乃さん。すげー美人。そしてすげー優しい。俺たちを引き取ってくれた人だ。……なんかこう言うと両親が死んだみたいに聞こえるがちゃんと生きてるからな。親父が海外勤務になって、それにお袋も一緒に付いて行くことになったんだが、俺たちは行かず静乃さんの家に厄介になることにしたのだ。
そうしてはるばるやって来た星笹町。程よく田舎で程よく都会な町。うん。俺こういうトコ大好き。何か欲しいものがあれば大抵揃うし、自然が恋しくなったらちょっとした原生林もあるし。親父、海外行ってくれて本当ありがとう。しかも美人の静乃さんと同居という超弩級のおまけつきだ。いやむしろメインか。とにかく星笹町最高! マンセー!
「……何ニヤニヤしてんの? 気持ち悪いよバカ兄。」
…………フ。分かってたさ。いずれこいつは何かしら水を差してくると。だが………………「気持ち悪い」は傷つくなぁ………………

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