《MUMEI》 「七生は、リサにそっくりだよ。明るく振る舞いながら腹のうちに何かを秘めてる。」 「七生がですか?」 七生の実母である、リサさんはまるで聖母様みたいな綺麗な人だ。 「いつか、リサみたいに消えてしまいそうだ。あの子を私の子供にしたいんだ、でも、頑なに北条の姓を拒む。私はあの子の親で在りたい。なんだってしたいんだ。子供の独占欲みたいだね……」 彼にとって、リサさんは絶対的な存在で、七生はその忘れ形見なんだ。 「いえ、素敵なお父さんだと思います。」 愛の深さを知った。 「なんだかね……、七生が楽しそうに話してくれると、無意識に君に嫉妬してしまうよ。」 七生が? まさか。 でも、修平さんが嘘をつくとは思えない。 「俺は、七生が今の生活を大切にしてることがよく分かりますよ。 もしかしたら、上手く表現が出来てないだけなのかもしれませんよ?」 なんか……俺、七生の人生を庇護してる。 「私はリサが消えたことを本当に後悔している。もっと、話し合えば良かったと自分を責めた。」 修平さんが七生に似た睫毛の多い瞼を閉じる。 「七生は消えたりしませんよ、修平さんにそっくりです。」 俺の前から消えた分の時間は、修平さんの子供だったに違いない。 「それとなく、七生に外国のこととか聞いておいてくれないかな。」 つまりは、俺に橋渡しを頼んでいるのか。 「向こうにはどのくらい居るんですか?」 「五年くらいかな。」 五年なんて、すぐじゃ無いか。 365日を五回繰り返すだけだ。 そうだ。 結婚だって、瞳子さんなら七生の横で幸せな花嫁になれる。 「修平さんから言った方が七生も喜びますよ。」 外国に行きたがっていたのだから調度良い機会じゃないか。 だから、俺の私情を挟んではいけない。 前へ |次へ |
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