《MUMEI》

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なんとなく、電話している将太の背中を見つめていたら、


急に慌てて電話を切った。



いまだ、携帯を見つめている彼を眺めながら、わたしの胸の中に沸き上がる思いがあった。





…………怪しい。



あの慌て方。


あの話し方。


あの、電話の切り方………。





「オンナ、でしょ?」





わたしはぽつんと呟いた。

将太はビクッと肩を揺らす。それから恐る恐る振り返った。


その動揺しきった目を見て、


わたしは、自分の考えが間違いではないと確信する。


「彼女?」


立て続けに質問をすると、将太はぎこちなく笑いながら、「違いますよ!」と大きな声で答えた。


わたしは彼の様子を観察しながら、つづける。


「今日、約束してたの?」


すると、将太は首を横に振る。


「違います!予備校、サボったから……ダチが心配して、そのぉ………」


ぶつぶつと言い訳している。





………てゆーか、


予備校??





わたしは腕を組み、瞬いた。


「サボったの?」


強い口調で尋ねると、将太は俯き、少し肩を落として、「ハイ……」と力無く返事をする。

わたしたちの間に流れる固い空気を感じたのか、ヒューが心配そうに鼻を鳴らした。

わたしはため息をつく。


「予定があるなら、ちゃんと言ってくれたらよかったのに」


最初に言ったはずだ。

将太がヒマなとき、ヒューと遊んでくれたら、と

わたしの非難の言葉に、将太は顔をあげた。


「予備校、そんなに行きたくなかったし」


「サボる口実にしたってこと?」


わたしの刺々しい声に、彼は少しためらいながらも、ゆっくりと言葉を選ぶように呟いた。


「勉強してるより、ヒューと遊んだ方が楽しいし」


「そんなの理由にならない」


ばっさりと切り捨てると、将太はまた俯いた。すっかり落ち込んでいる。

わたしは荒々しくため息をついた。


「ご両親が、せっかくお金出してくれてるんでしょう?だったら、ちゃんとそれに応えてあげないと。それが、キミの義務だと思うけど………」


そこで、言葉をとぎらせる。


お母さんの顔が、瞼にちらついた。


お母さんも、わたしのことを思って、わけの分からないサプリメントを買い貯めたり、いろいろ気付かって声をかけてくれている。





それなのに、





−−−わたしは?





わたしはちゃんと、



お母さんに、みんなに、





応えてる?





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