《MUMEI》
人間じゃなくても…
「気持ち悪いよな、こんな手…。」

男の声が微かに震える。


涙を流していた。

目じゃなく、心が泣いていた。
自分の運命を、存在すらもこの涙で流れ消えてしまえばいいと歎いている。


そんな涙だった。


「友達になれるか?」

男は僅かに怒りの込もった低い声で加奈子に問う。

「あんた、言ったよな?“友達になって”って。」

加奈子はゆっくりと頷く。
「だったらもう一度聞く。こんな…自分の事すら判らない、人間でもない奴とまだ友達になる自信あるか?」

男は真っ直ぐ加奈子の目を見る。

加奈子も男を真っ直ぐ見る。



そして



コクリと頷いた。


「嘘を付くな!!!」

男は有りったけの力を振り絞るように叫んだ。

「俺は人間じゃないんだぞ!?いつかあんたを…」

「嘘じゃない。」

加奈子は男の口に手を当てて言葉を制すると、静かに言った。

「嘘じゃないよ。私、嘘付けないの、あんた知ってるでしょ?」

「怖く…ないのか?俺はあんたを殺すかも知れないんだぞ?」


「…怖いよ。」

「じゃあ何で…」

「怖いけど、怖くない。」
「何だよ、それ。」

「友達だから…友達だから怖くない。」

「だからっ!俺はいつかあんたを…っ」

「殺せない。」

「え?」

「あんたは私を殺せない。友達だから…だから私は怖くない。」


そう言い切る加奈子の目は力強く、けれど優しく男を見ていた。




「リョウ…。」

「何?」

モゴモゴした口調で上手く聞き取れずに、加奈子は聞き直す。
すると男はムッとした表情をしたが、今度はハッキリとした口調で言った。


「リョウ!!」

「リョウ?」

一体何の事だか分からず、キョトンとする加奈子を見て、男は更に言葉を加えた。


「俺の名前。」

「名前、教えてくれるんだ?」

「と、友達だからな…」


ニッコリと笑う加奈子から目を逸らして、男は少し恥ずかしそうにした。

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