《MUMEI》

先生は、そっと私を抱き寄せた。

「広崎は・・・俺にとってたったひとつの宝物だから。」


私はその言葉に、胸がギュっとなる。嬉しいわけではなく・・・悲しかった。

先生にとって私は、10年間出会うことのなかった、『さわれる』女の子なんだ。大切に思う気持ちは間違えなくあっても、それがイコール好きではない。そんなことを確信してしまった。

「先生・・・私がんばるね。先生にちゃんと好きになってもらえるように。」

先生は私の肩を抱いている腕を緩め、体を離した。
私を見つめる目が、今にも泣き出しそうだった・・・。でも否定はしない。

そのかわり、
「・・・ごめん。」
と言った。

私はそれでも、この関係を終わらせたくなくて、必死で首を横に振った。

「も、もともとリハビリ係なんで。」
ちょっとだけ笑って見せた・・・。

先生は私のことを、やっと探して見つけだした、大切な『もの』だと思っているに違いない。誰にも取られたくないんだ。それは愛情でも恋でもなんでもない気がする。


「成原は、きっとおまえに救われたと思ってるよ・・・俺と同じだ・・・」

先生は私の笑顔を見て、独り言のように呟いた。フェイドアウトしていくように小さな声で呟いた。

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