《MUMEI》 . 将太が放った台詞は、誠実な響きをはらんで、わたしの胸の奥の方まで届いた。 心を揺さぶるような、真剣な眼差しに見据えられ、 そして、 自分でも信じられないほど、 素直に、言葉がつむぎだされた。 「わたしも、同じ」 将太は眉をひそめた。わたしは、その顔を見つめながら、つづける。 「わたしも、会いたかった。もう一度、キミと」 そこでため息をつく。 そうしなければ、涙がこぼれそうだったから。 緊張で唇が震え出す。 「だから、お願いしたの……ヒューのこと」 ヒューはわたしの足元で鼻を鳴らし、わたしを見上げた。 将太は黙っていた。わたしの台詞に、ただ、ビックリしたような顔をしていた。 その表情を見て、 わたしは、ほほ笑む。 「わたしたち、似てるのかもしれない………」 −−−おもうに、 わたしたちが、こうして、知らず知らずのうちに、惹かれ合ったのは、 多分、似ていたから。 ひとりぼっちで、ムダに時を過ごす虚しさを、 知っていたから。 わたしは、心を決めた。 「………撤回させて」 わたしの突然の言葉に、将太はキョトンとした。 わたしはほほ笑む。 「これからも、ここで、わたしたちと会ってください」 わたしたちに与えられた時間の、ゆるす限り。 将太はじっとわたしを見つめていた。瞳の奥を覗き込むように、深く、深く。 そんな風に、だれかに見つめられたのは初めてで、わたしは年甲斐もなく、うろたえてしまった。 戸惑うわたしを見つめながら、彼は笑い、 そして、はっきりと答えた。 「もちろん」 それはやっぱり、真夏の太陽のように眩しい笑顔で、 その表情を目の当たりにすると、 わたしの中の、鬱屈した心が、 きれいに、浄化されていくようだった。 . 前へ |次へ |
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